吉澤嘉代子、大森靖子、水曜日のカンパネラ……個性豊かな「妄想系女子」に脚光
「妄想系個性派」と呼ばれるシンガーソングライターの吉澤嘉代子が、初のフルアルバム『箒星図鑑』を3月4日に発表する。2013年にインディーズで発表したデビュー作のタイトルは『魔女図鑑』だったが、小・中と学校に行けなかった彼女は、「魔女になりたい」と本気で思い、家で一人箒にまたがって、魔女修行をしていたのだという。かつてはその「魔女時代」を許せなかったが、徐々にそれを受け入れ、今なら「あの頃があったからこそ、今の自分が存在する」と思える。本作のタイトルには、そんな想いが込められている。
おそらく誰にでもひとつやふたつ、記憶から消し去りたい黒歴史があることだろう。当時の自分にとって、それはとてもシリアスな問題なのだが、時間を経て振り返ってみると、そういうときの人間はとても滑稽で、笑えたりするもの。『箒星図鑑』に収められた13の楽曲の主人公たちも、やはりそれぞれの問題を抱えているが、吉澤はそれをシュールな世界観の歌詞や、キュートな歌唱によって、普遍的なポップスへと昇華して見せる。
不良に憧れる真面目な女の子が背伸びして悪ぶってみる「ブルーベリーシガレット」、一人ぼっちになりたくないから、仲良しグループの悪口話に参加する「なかよしグルーヴ」、三島由紀夫の『黒蜥蜴』に魅了され、ストリッパーを主人公に書いたという「シーラカンス通り」など、シチュエーションは実にさまざまだが、真剣であればあるほど、主人公たちの姿はやはりどこか滑稽。また、女の子ならだれでも共感できるのであろう“脱毛”をテーマにした「ケケケ」は、吉澤のダンスや変顔が印象的なミュージックビデオも含め、妄想全開の一曲で実に楽しい。この日常からの跳躍力こそが、彼女の最大の武器だ。そして、大人になりきれない少女を描写した〈ストッキングの網目で あやとりするのも飽きたよ〉というラインが秀逸なオープニングの「ストッキング」と、“自分自身について書いた”というラストの「23歳」があることで、アルバムに吉澤嘉代子印の判が押され、作品としてギュッとまとまった印象を受ける。
音楽的にも、ホーンセクションを配した華やかなファンクをはじめ、多彩なアプローチで聴かせるagehaspringsの横山裕章と、フィル・スペクターが手掛けたガールズ・グループのような雰囲気が懐かしくも新しいcafelonの石崎光という2人のプロデューサーが脇を固め、吉澤の多面的な魅力を見事に引き出している。東京カランコロンのいちろーや、オワリカラのタカハシヒョウリなど、バンドシーンからも彼女の才能を称賛する声は多く聞かれ、本作をきっかけによりその知名度を増すことは間違いないだろう。